海月漂流記

映画や本の感想、日記など。

ミュージカル『ゴースト&レディ』

劇団四季製作『ゴースト&レディ』を見た。

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藤田和日郎黒博物館 ゴーストアンドレディ』を原作とした、劇団四季の新作ミュージカルだ。もともと原作が大好きだったので、楽しみにしていた。

感想は、「すごかった」に尽きる。単行本2冊を2時間50分にまとめ上げた構成、耳心地のいい音楽、イリュージョンなど、原作へのリスペクトを感じさせながらもまた違った作品に生まれ変わっていた。

以下、原作もミュージカルもかなり細かいところまでネタバレしています。

 

原作との大きな違い

①黒博物館のキューレーターは登場しない

②生霊の設定がない

③物語のキーになるアイテムが「かちあい弾」から「ランプ」へ変更

④ゴーストは人間を殺すと塵となって消えてしまう

⑤元婚約者アレックスと新米看護師エイミーがオリジナルキャラとして登場

⑥グレイとフローの初対面の際、フローは既に看護師になるという夢は叶えている(クリミアでの任務を家族から反対されている)

などがある。かなり違うな?!

なのにこの満足感…。展開が違っていても原作もミュージカルも「同じキャラクター」としてブレないでいてくれるのが大きいと感じる。

 

改変で残念だと感じたところ

・グレイの口上が短くなった

 かつて決闘代理人だったグレイは、幽霊になってからも決闘を申し込む際、長台詞を言っていた。それがミュージカルでは「君に決闘を申し込む!」だけになってしまっていた。あの台詞かっこよくて好きだったのに…。

 

フィッツジェラルドのキャラ変更

 原作でのフィッツジェラルドは最後まで上司であるジョンホールの命令に従い続ける。最期の言葉も「命令に従っただけだ」と。その言葉がフローの心に怒りをもたらし、ジョンホールに「戦争は考える力を奪うのだ」と、フローは強い強い主張をする。この部分はすごく大切なメッセージだと感じていたので、この部分が省略されたのはすごく残念だった。

 

改変で良かったところ

・グレイの生きていた頃の名前

 原作では孤児院に適当につけられた「ジャック」は、ミュージカルでは生みの親につけてもらったものに変更されていた。だからラストシーンでフローがグレイのことを「ジャック」と呼ぶのが良かった。

 

・デオンの最期

 「ゴーストは人間を殺すと塵となって消えてしまう」という設定があるからこそ、デオンは「どうやってゴーストとしての最期を迎えるか?」と考え、「クリミアの天使 フローレンス・ナイチンゲール」を標的にした。その動機付けが上手い。また、最後のグレイとの戦いでグレイに敗れ、満足そうに消えていくのが、原作よりも丁寧に描かれていて嬉しかった。

 

・アレックスとグレイの対比

 アレックスは良くも悪くも英国紳士で、フローへのプロポーズに素晴らしいサムシングブルーを用意する。フロー以外のごく普通の女性なら心から喜ぶようなものも、相手がフローなので断られる。クリミアでの任務も途中から参加してフローを支えるかと思いきや、フローに「きみなら1人でもきっと大丈夫」と言い捨ててエミリーと共に本国に戻っていく。

 対してグレイはフローのためだけのサムシングブルーを用意したし、フローを最後まで信じた。フローとグレイは共に戦うパートナーとして絆を深めていったのがいい。

 

・「信じる」という主題

 これまでの人生で裏切られ続けたグレイがフローを信じたことだけでなく、フローもグレイを、そして「私が選んだ道」を信じる、というのがすごい。エミリーが辞めると言ったとき、グレイに「ひとりぼっちで辛い」と吐露していたのが、最後にはフローは「自分が死んでも誰かがこの道を歩く」と未来を信じる。その姿を見て、観客はフローの意志をしっかりと目に焼き付ける構造になっている。

 

演出

スコット・シュワルツの演出はとてもわかりやすく、センスに溢れている。回想シーンはモノクロを基調としていたり、場面転換もスムーズ。舞台が劇場からクリミアに移る際も、ドルーリーレーン劇場2階から地図を下ろす演者が舞台スタッフの衣装を着ていたりと、細かい。

最後の戦いが終わり、舞台に1人残されたフローが絶叫した後、幕が下まで落ちきるのが、フローの悲劇はここまで、という区切りなのだと感じた。そしてハッピーエンドにつながる。

幽体離脱やフライングなど、イリュージョンも色々で目が足りなかった。

グレイがフローに霊気を与えるシーンは、浮く必要あったのか?そこだけ疑問。

 

音楽

フローとグレイが屋敷に向かう際の音楽「俺は違う」がホーンテッドマンションみたいで可愛かった。クリミアに向かう「走る雲を追いかけて」は聞いていると元気をもらえる。

デオンのダンスもとてもかっこよかった。目が釘付けになる。

リプライズが多く、耳に残る音楽ばかりで、歌詞も聞き取りやすい。フローの歌は高音が多くて難しそう。

本当に演者はすごい。

 

新作ミュージカルとして

そもそも、劇団四季がコロナ禍で新作ミュージカルを作る、となったときに医療従事者を主人公にしたのがすごい。コロナで辛い思いをしたであろう医療従事者への大きなエールになるだろうし、自分の仕事に誇りを感じる人もいると思う。もしかしたら看護師を志す人も出るかもしれない。

また、原作者との関係性もよくて、安心させてくれた。藤田先生が絶賛しているのがファンとしてはとても心強い。島本和彦先生や高橋留美子先生も観劇していて感想をHPやTwitterで述べてくれているのが良かった。

 

総括

11月10日(日)13:00公演、11月11日(月)13:00公演(東京公演千秋楽)はライブ配信があるので是非みてください。また、2025年春は名古屋公演、冬は大阪公演が発表されました。また東京に戻ってきてね。