読んでいる間は声を出して笑っていたのに、読み終わったら何もかも忘れてしまっている、そんな本だった。あっという間に読み終わってしまった。
好きな文章を引用しておく。
奇跡の水虫治療
姉は急に冷酷極まりないナチの司令官の様な顔になり、トイレのスリッパは使うなとか、
部屋を裸足で歩くなとか、数々のオキテを数十秒のうちにつくりあげ公布した。
あくる日から、私の水虫研究は始まった。野口英世並みの熱意で研究を行い、一日のうち七十パーセント以上の時間を水虫に費やしていた。
メルヘン翁
「ジィさんが死んだよ」と私が言ったとたん、姉はバッタのように飛び起きた。「うそっ」と言いつつ、その目は期待と興奮で光り輝いていた。
宴会用の女
フト我に帰ると桜吹雪の中で芸人になっている自分が人生を後ろ歩きで歩んでいる事に気づき、空しかった。
結婚することになった
あんな父でも神妙な顔をするのか、と思った時、父の頬が光っているのが見えた。頬に汗が流れるはずがない、他の人からは見えないが、私の角度からだけは父の涙が見えたのだ。
その後の話
私は、親の所有物として生きてきたつもりはなく、親もそのような気持ちを持った事は一度もないと思う。
親にとって私や姉は、お腹の中からやってきた、これから一緒に喜んだり悲しんだりする、いとおしい仲間であった。(略)
姓が変わる事なんて、そんなに大した事はない。水だって、行きたくて空へ昇って、固まって落ちてきたら雪と呼ばれるようになる。それと同じだ。