海月漂流記

映画や本の感想、日記など。

映画『夏の終わりに願うこと』

リラ・アビレス監督『夏の終わりに願うこと』を見た。

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ホームビデオを見ているような感覚になった。親戚同士で集まった時、久しぶりに会う従兄弟に人見知りしたり、大人同士がちょっと喧嘩っぽくなって気まずくなったり、ゲームに集中していて怒られたり、そういうのって万国共通なんだなって思った。

そういうどこにでもある風景の合間に、病気で苦しむ父・トナ(マテオ・ガルシア・エルソンド)の姿が挟まって痛々しい。ソル(ナイマ・センティエス)がトナに会えるまで時間を潰す間、たくさんの動物が映ったのが印象に残った。蟻、鳥、カタツムリ、それぞれの動物が同じ時間を過ごし、それぞれが死に近づいているということをソルは無意識にわかっている。

 

闘病するトナのために大人たちもそれぞれ何かしようと取り組んでいる。霊能者に頼るのはどうかと思うけど。その霊能者もクチコミを書くよう念押ししたり、「3,000ペソのところ2,500ペソでいいわよ」と言ったり、商売慣れしているところも面白い。

 

ソル・トナ・母の3人の家族団欒の風景はとても心温まるものだった。この時間がいつまでも続いてほしいと思うほど。だからこそ、誕生日ケーキを前にしてトナが「願い事はない」と言ったのは、ソルにとって辛い言葉だったのだと思う。

トナが死を受け入れていることがはっきりとわかったから。ソルのロウソクを見つめる表情が、哀しみなのか、願いなのか、祈りなのか、深い深い想いをカメラがただ見つめる。

 

メキシコの空気、生き物たち、家族と友人たち、たった1日の、閉ざされた時間と空間の描写の中に、世界の全てが広がっていた。